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「なぁ服貸してくれよ」


何歳かは知らないが、そこそこいい歳なんだろう髭面の男が、男の裸を見たくらいでこんなにも可愛いリアクションをとる様はそう拝めるものでもないから、もっとずっとこうしていてもいいかな。とすら思うけれど、やはりさすがに、いつまでも裸で居るわけにもいかないので、俺はそう声をかけた。

「服はそこのクローゼットの中。好きなの勝手に着ろ。そんでパンツは新しいのないからすぐそこのコンビニに買いに行くか、まぁ嫌じゃなかったら俺の使え。それもクローゼットの中適当にさがして」

男はなんの躊躇もなく、やはり目を手で覆ったまま答える。
俺はそれを聞いて遠慮なくクローゼットを開けた。

「名前なんていうの?」

物の少ない殺風景な部屋に住んでいる男のクローゼットは、これまた閑散としていて、スーツやコートの類が何着かかっている他は、何でも下においている籠に適当につっこんであった。

拾ってくれたお礼に片付けでもしてやろうかなと考えて、パンツとジャージの類を引っ張り出す。


「近藤勲。お前は?」


先に名乗れよ。とかそう言うことは言わないんだな。と、パンツに脚を通しながら、近藤の返事を受け取り思った。素直な男だ。

「俺はトシ」



「そうか。トシ・・・」

氏素性を明かしたくない俺の答えに、少しだけ何かを考えて、結局なにもいわずに近藤勲は、俺の名を受け入れる。

「残念なお知らせがある」

「は?何?」

急にそんなことを言われて、俺は思わず眉をよせた。近藤勲の方を見ると起き上がった彼と目が合う。

なんだってんだ・・・


「お前の携帯がお亡くなりだ」


・・・は?携帯?なんだ、何事かと思ったじゃねーか・・・って


「えええー!!なんで?」

「水没なさってたぞ。まぁあんな酷い雨の日に傘もなく歩いたんじゃなー仕方ないな」

あっはっは。って笑うなそこ。

あークソ。携帯なかったらこれからどこに泊まればいいんだよ俺は・・・




「しばらく泊めろ」

「え?」

「しばらく泊めろって言ってんの!」

最初の呟きが聞こえなかったらしく無邪気な顔をして聞き返してくる近藤勲を睨みながら、俺は声をあげる。

数秒奴はキョトンとして、そして


「え゛え゛ー??!なんでだよ。お前自分ち帰れよ」

叫んだ。


「帰るトコねーんだよ」

そうなのだ、俺には帰るとこがない。自分の家がないわけじゃない。ただ諸事情あって今は帰れない。だから女(時には男もだが)の家をわたり歩いていたのだ。

「・・まじで?」

「なんで嘘つかなきゃいけーねんだよ」


「・・・じゃ、しゃあねーか」


何も彼にとってしゃあないことはないだろうに、やけにあっさりと近藤勲はokをだした。
そういえば人の好さそうな面をしている。とおもったっけ。
こんな時代だ。警戒心持った方がいいぞ。と余計なことを思いながら、

「ありがとう。勲」

にっこり営業スマイルをむけると、近藤は照れたように笑った。

「お礼に家事やっといてやるし、なんだったら夜のお相手も、な、勲」

「勲勲言うな!っていうか夜のお相手って・・・んなもんいるかー!!」

「いいじゃん。俺とお前の仲だろ?」

「どんな仲だよ。昨夜会ったばっかじゃねーか」

ああ、予想通り。からかうと面白い。

当面の暮らしが保障された上に、こんな面白い男に出会うなんて。
今日はついている。
擦れた人間とばかり付き合ってきた俺には、実に新鮮に映る勲の反応がもっと見たくて、俺は勲の唇に口付けた。


「・・・・・・」

「・・・・ぎゃぁぁぁ!!何するんじゃぁー!!!」



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