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夜中に物音がして、ハッと覚醒した。
目をあけて一番に見たのは、暗い部屋の中で、薄ら明るい光に照らされた白い素肌だった。
オレンジ色の灯りに照らされた濡れた背中は、鍛えられた美しい背中。

(寝ちまってたのか・・・)

光源の弱さのせいか、ぼやけたオレンジの光の中で動く長く伸びた黒い影のせいか、自分の目に映っているその光景が夢か現か解らなくなって俺は何度も目をこする。
そうしながら凝視した男の背中を、つたう水滴は艶かしくて、さっきまで見ていた筈の、思い出せない夢の重苦しい後味とない交ぜになって、酷く欲情した気分になった。

「なぁ、勲、もしかして誘ってる?」

こんな時間にこんなところでゴソゴソしているのはたった一人。俺が帰りを待ち侘びるたった一人。
呟くような俺の声にギョッとして振り返った勲の顔には、困ったような笑みが張り付いていて、俺は寝ぼけた頭で、あんな顔は勲らしくないなと思った。

「ん?起こしたか?」

優しい声で返事をした勲は、缶ビール片手に曖昧に笑うだけで俺の質問には答えない。
もしかしたら本気で誘ってるのかもしれないな。とありえない期待を膨らませて俺は小さく微笑んだ。

「聞こえてる?誘ってんの?って聞いたんだけど」

「ん?何をだ?」

ああ、きっと、勲は今ここに居るけどここに居なくて、俺の話なんて殆ど聞いちゃいない。
時々あるんだ、考え込んじゃって、上の空。
ホントに襲うぞコラ。

「こっち・・来て」

「なんだ、トシ?人恋しくなったのか?」

人の気も知らねーでいい気なもんだ。

コレぐらい罰はあたらねーだろう。と、俺は、迂闊にも近付いてきた勲の首筋を捕らえて強引に口付ける。

「んんッ!!」

濡れた髪も、風呂と酒のために上気した頬も、戸惑った声も堪らなく可愛くて、ゾクゾクした。

「ト、トシッ!!」

ゆっくりと濃厚なキスの果てに、ようやく開放してやると、自由になった唇が抗議の声を漏らしたが、なんだか酷く眠たくて俺は思うままにニヤリと微笑む。

「お前なぁ」

呆れたような声が頭上から聞こえてきて、随分無防備なのは俺の方かと今更ながら思い知った。
眠い。

意識を手放す際に何か声が聞こえてきたが、うまく聞き取れなかった。
勲の顔が見れて良かった。

ああ・・・



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